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PRIMARY CARE PHYSICIANS 45号 地域連携を活用し専門性を発揮する循環器クリニック

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地域連携を活用し専門性を発揮する循環器クリニック
                               ― 医療法人社団 竹内内科(兵庫県神戸市)

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身近なクリニックで 重症化・再発予防に取り組む
理事長・院長・神戸大学医学部臨床教授 竹内 素志(たけうち もとし)氏
1978年、秋田大学医学部卒業後、神戸大学医学部第1内科入局。
85年、同大学大学院医学研究科博士課程修了。兵庫県立姫路循環器病センター医長を経て、
86年、神戸大学医学部第1内科助手、心臓カテーテル検査室チーフ、心不全心機能研究班チーフを務める。
96年、同大学医学部附属病院第1内科病棟医長を務めたのち、
97年、竹内内科を開業。現在、灘区医師会生涯教育・学術部担当理事を務めるほか、神戸心臓病フォーラム世話人なども引き受け多方面で活躍している。日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定内科医。

●地域の身近な循環器クリニックとして神戸市灘区に開業した竹内内科の竹内素志氏は、長年積み重ねた循環器専門医としての経験により、高血圧をはじめとする循環器疾患の重症化・再発予防のため、軽症から重症まで的確な検査・診断・治療を行い、急変した患者にも対応する。その基盤となるのは、強力な病診・診診連携体制だ。自ら構築した地域連携体制の要となり、得意分野に特化した診療でベストな医療を提供。患者のみならず、地域の医療機関から大きな支持を得ている。

Clinic's Profile
開 業:1997年 診療科:内科・循環器内科  職員数:医師1人、看護師5人(非常勤)、臨床検査技師2人(非常勤)、事務5人 立 地:JR六甲道、阪急線六甲両駅から徒歩約5分。
URL :http://www.takeuchi-clinic.com/

P O I N T
1.最良の循環器診療を行える地域連携体制を整える 自らのできることを超えるときや専門外のことは、地域の専門家に受けてもらうことが、患者にとってよい医療である
2.高血圧性の変化を見せて自覚を促し治療アドヒアランスを上げる 治療を中断しないように、頸動脈エコーの画像でプラークを見せるなどして、治療を中断しないように患者のモチベーションを高める
3.降圧薬配合剤をベースに考える ARB/CCB配合剤をベースに、利尿薬の増減、または、2規格ある配合剤を用いると調整がしやすい

地域連携で循環器疾患の軽症から重症まで診る
 竹内素志氏が神戸大学医学部附属病院を辞し、JR六甲道、阪急線六甲両駅から徒歩約5分の場所に竹内内科を開院したのは1997年。循環器内科の診療をメインに据えて軽症から重症まで一手に引き受ける同院は、いまや地域の循環器医療を緊密に支える病診・診診連携の要となっている。
 竹内氏は、大学病院では心臓カテーテル検査や心不全・虚血性心疾患・心筋症などの治療、救急医療に携わり、専門外来も受け持った。そうした重症患者の治療に当たってきた経験から、「身近な地域のクリニックで迅速に検査・診断・治療を行い、心臓病や脳血管障害の1次予防、重症化・再発予防に取り組むことが患者さんにとってメリットになると考えました」と開業の動機を語る。
  1日患者数60 〜 80人のうちほとんどが高血圧、脂質異常症、糖尿病を基礎疾患とし、定期的に受診する。なかでも高血圧患者は圧倒的に多く、約900人を受け持つ。そのうち約3割が 不整脈や心不全、狭心症、心筋梗塞などを合併した高リスクの患者だ。
 「当院の周辺には、専門性をもつ他科診療所が約10軒開業しています。合併症があるなど非専門医では対応が難しい循環器疾患の患者さんが当院に紹介されます。初診の約3割が紹介患者ですので有病率の高いことが特徴です」
 循環器疾患に関して病院の外来でできる検査はすべて対応可能な体制を整え、迅速・的確な診断とフォローに努める同院に対する連携先からの信頼は厚い。
 一方、病院から心臓バイパス手術など心臓血管外科術後のフォローを依頼され、逆紹介されるケースも多い。そうした重症患者を診ている分、病状が急変した場合には診療時間外でも連絡するようにと電話番号を渡し、日・祝日でも連絡がとれるようにしている。
 「月に1回ほど、心筋梗塞の発作や心不全の急性増悪を招いた患者さんから電話が来たり、突然飛びこんできたりすることもあります」と、緊急の対応を求められることも頻繁だが、竹内氏が救急車を呼び、病院のその日の担当医に連絡して手配するから、話が早く、的確だ。
 同院から救急車で10 〜 20分の距離には、古巣の神戸大学医学部附属病院をはじめ、神戸市立医療センター中央市民病院、神戸労災病院、神鋼病院、神戸赤十字病院など数多くの急性期病院が立ち並ぶ。そのほとんどに大学病院勤務当時の先輩や同僚、後輩の医師が院長や循環器部長として勤めており心強い。
 「当院の後方に病院が病棟としてあるのと同じようなもの。病院の外来で診ていたような重症の患者さんを地域で診ることに大きなやり甲斐を感じています」と大変ながらも充実していると竹内氏は語る。

ARB/CCB配合剤をベースに処方を調整
同院では高血圧患者に対し、まず胸部X線検査や心電図を撮り、未治療の場合にはレニンやアルドステロンの値を測るのもルーチンとしている。
 「一概には言えませんが、低レニンから食塩感受性高血圧を見つけたり、2次性高血圧の除外に役立ったりすることがあるからです」
 薬物療法では、降圧薬2〜3剤を併用投与している患者が多い。配合剤も4割以上に処方している。
 「ARB/CCB配合剤を処方することが少なくありません。それをベースに、降圧効果を強めたい冬季には利尿薬を追加し、暖かくなると利尿薬を中止するなど、調整がしやすいからです。また、患者さんによっては2規格ある配合剤を用いて調整しています」
 降圧薬配合剤に切り替えると服用する薬剤数が減るだけでなく、薬剤費が安くなるので患者にも喜ばれる。何よりも服薬コンプライアンスが向上することから積極的に処方しているという。

高血圧性の変化を提示し患者のモチベーションを上げる
サイレントキラーといわれる高血圧は自覚症状が乏しい。治療に取り組む患者のモチベーションをいかに維持し、降圧薬の服薬を中断しないようにさせるかが医師の腕の見せどころだ。
 「高血圧診療のコツは高血圧性の変化を見逃さず、それによって生じる身体の異常の具体的証拠を患者さんにしっかりと見てもらい、自覚を促すことです」
 例えば、高血圧などによる心臓肥大や拡張不全などは、心エコー画像を患者に見せることができる。
 「これが息切れの原因です」と説明すれば患者の顔つきが変わる。あるいは、胸痛/心筋マーカー迅速測定装置で測定した血中NT-proBNP濃度の経時的変化をグラフで示すだけでも効果的だ。
 「最も容易で効果的な方法の一つは、頸動脈エコーで患者さん自身の頸動脈狭窄症の画像を見せることです」
 動脈硬化による頸動脈のプラークが、エコー画像にはっきりと映し出される(写真3)。「これが破裂して血栓が生じ、それが脳へ飛ぶと脳梗塞を起こしてしまいます」と説明すると、思わず手で首を押さえる患者が少なくない。

他科とのチーム医療で中枢性睡眠時無呼吸を治療
最近、竹内氏が特に力を入れているのは、高血圧患者に比較的多く見られる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の発見と治療だ。特に、心不全を進展・悪化させる中枢性睡眠時無呼吸(CSA)の発見に努めている。SASスクリーニングのための簡易PSG検査装置と治療のためのマスク式人工呼吸器(ASV)なども新たに導入し、積極的に患者に貸し出している。
 病院の呼吸器内科や、耳鼻咽喉科、歯科の診療所と連携し、SASに対するチーム医療も展開をスタート。症状や原因疾患の治療に即してチーム内の専門医が治療に当たるから、患者にとっても大きな利益をもたらしている。
 「循環器治療の基本は、" First, DoNo Harm"。わかったような気にならない、悪さをしないこと。自分のできることをしっかりやり、それを超えることは専門家に受けてもらうことが大事」と話す竹内氏は、強力な地域医療連携を武器に、患者にとっての最良の循環器医療を追及している。


写真1竹内内科外観 写真2 心電図装置、X線検査装置、24時間ホルター心電図装置、超音波検査装置(@)、胸痛/心筋マーカーNTproBNP迅速測定装置(A)PT-INR簡易迅速測定装置(B)、自転車エルゴメーター(C)などのほか、病院の外来で行う検査機器はほぼ揃えている。 心筋シンチ、MDCT検査、冠動脈MRA、心臓カテーテル検査などの入院で行う検査以外はすぐに対応可能な態勢。迅速に検査・診断が行えるため、近隣の診療所からの紹介患者も増えている 写真3 デジタルX線画像診断システム(FCR)を導入。同じモニターで頸部エコー写真を閲覧できる。頸部のプラーク画像を患者本人に見せ、病気を実感してもらう